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赤い小人

両国のシアターχで、『リュシアン 赤い小人』という映画の先行レイトショーを観てきた。ずっと気になっていた映画であったが、期待以上に素晴らしい内容だった。

主人公は、法律事務所で勤勉に働く「小人」のリュシアン。臆病で几帳面な性格ではあるが、繊細で想像力豊かな人物として描かれている。ある日リュシアンは、ふとしたことで知り合った年増の伯爵夫人に、その文筆の才能を賞賛される。はじめて自分を認めてくれる人に出会えたことで、彼は有頂天になる。自分とはまったく懸け離れた彼女の存在が、リュシアンの目にはこの上なく魅力的に映ったのだろう。その妖艶で巨漢の風貌と豪奢な生活習慣にも魅了され、リュシアンは伯爵夫人との情事に没頭するようになる。リュシアンは伯爵夫人を深く愛するが、やがてその生活は破たんする。伯爵夫人はリュシアンを遊び相手としか思っていなかったのだ。深く傷ついたリュシアンは、生活の気力をまったく失ってしまい、退廃的で荒んだ生活に落ち込んでいく……。
そんな時彼を救ってくれたのが、以前サーカスで知り合ったブランコ乗りの少女、イジスだった。同じ背、同じ目の高さのイジスを、リュシアンはこの世界の唯一の理解者としてかけがえなく思い、イジスはリュシアンの心の奥底にある優しさを感じ取り、心から愛するようになる。そして二人は同じ目線の大勢の子供達と共に、王様の行進のような威厳と喝采の中で、光に満ちた世界へと踏み出すのである…。

監督はベルギーの新人で、初長編作ということであるが、映像に力があり、不思議な余韻がしばらく後をひいた。途中の奇妙なストーリー展開と、毒々しいユーモアにも圧倒されるものがあった。「小人」という過酷な運命がこの物語の題材になっているが、一個の人間が自分本来の視点を取り戻していく過程がドラマチックに描かれている。自分が周りの人達とどこかしら違う存在に思え、所在のない存在感を抱き、劣等感に苛まれ、卑屈な意識の芽生えてしまった人であるなら、この物語は切実な共感をもって受け入れられるに違いない。

無理に背伸びすることなく、高見から見下すこともなく、大切に想う誰かと同じまなざしで世界を見渡すことができたなら、その時世界はどんなに輝いて見えることだろう…。

海岸の砂浜で逆立ちしたリュシアンと、うつ伏すイジスが見つめ合うシーンは、切ないほどに美しかった。