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本とコンピュータ・シンポジウム

ブックオンデマンド《リキエスタ》刊行&雑誌『本とコンピュータ』第二期刊行記念のシンポジウム(新宿・紀伊国屋ホール)に参加してきた。会場はほぼ満員で、20代の若い人から年輩の方まで、主に出版・編集の幅広い人たちが大勢集まっていた。プロジェクトとしての<本とコンピュータ>という活動が、広く世間に認知されてきたことを実感した。

今から四年前にこの本が出版された時、実際のところ業界の反応はかなりナイーブなものだった。本を作る現場のあり方に保守的な人達は、「変化」に対してあからさまに拒絶の意志を示していた。出版人自らが「変化」の流れをつくり出そうとする動きを、正直、不愉快に感じていた人達があの頃の出版界では大勢いたことだろう(ある時期、津野海太郎は業界バッシングをくらっていたらしい)。電子メディアやオンライン・パブリシングの可能性を模索することは、出版の未来に自ら首を絞める行為になりかねないと、危惧を抱いていたのだと思う。
しかし状況はあれからずいぶん変わった。電子出版など本とは言えないと、バカにして取り合おうともしなかった人達が、今はその可能性を一生懸命探っている。「インターネットと本は、案外相性がいいものかもしれない」だなんて、今頃になって偉そうに主張する人達もいる。たいていの場合、それは自らの防衛手段であって、積極的に価値を見い出してのことではない。でも、それでも何かやらなければいけないのだと、ようやく腰の重たい連中が動き始めたのは確かだと思う。

第1部は、「編集者、わが電子出版を語る」というテーマで、平凡社・みすず書房・岩波書店・文芸春秋・といった、大御所の出版者の編集者たちがパネラーとして主席。出版の現状と未来について意見を述べあった。それぞれスタンスの違いこそあれ、今起きている変化を「出版史における歴史的転換期」としてとらえようとする点で共通しており、前向きな姿勢を感じた。
第2部は、『本とコンピュータ』第二期の編集スタッフが勢揃いして、出版の現場で今起きていることの具体的な問題点や、将来的な可能性について、それぞれの立場に立った考え方を語ってくれた。歴史的な裏づけのあるメディアの形を尊重する意見や、古い衣や慣習的な足枷を早く外してしまった方がよいとの意見もあり、多様な価値観が絡み合いながら展開する議論に、会場全体がおおいに盛り上がった。「紙の本か、電子の本か?」という二者択一的な論点で批判し合うのではなく、互いがそれぞれの優れた要素を積極的に評価し、発展させる段階に来ているのだと思う。

「しかし実際問題、将来的に電子文化産業において利益回収は可能なのか?」「そもそも知的生産物で利益を得ることが妥当なのか?」という重大な問題提起が出たところで、時間がいっぱいになってしまった。そのような本質的な問題と、現状の課題とを見据えながら、これから本誌の中で考えていきたいといううまとめで幕引きとなった。

私は個人的にとても尊敬している「津野海太郎」さんを、間近に見ることができて、それだけで嬉しかった。刺激的な話をたくさん聞けて、こういう素晴らしい機会に自分も立ち合うことができて、本当に楽しい夜だった。
『本とコンピュータ』第二期の刊行が待ち遠しい。