クロアチアの旅2012(その15)

【クロアチアの旅(その15):モスタル(その1)】

スプリットを発ったのが午後3時頃。ボスニア・ヘルツェゴビナの「モスタル」まで、事前の調べではバスで3時間半くらいの距離となっていました。

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私がたまたま乗ったのは、観光客向けの長距離バスではなく、地元の足となる路線バスだったのでしょう。このちいさなバスに乗客は満杯。山間部を何度も登り降りしながら国境を越えて行くのだけど、道が悪いのか車が古いのか、車体の揺れが激しくて、車中では寝ていることも間々ならない。かなりハードで疲れの溜まる道程でした・・・。

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車体の揺れ以上に、このバスの運転手の愛想のなさと傍若無人ぶりがなかなか印象深かったです。突然車を止めたかと思うと、ぶっきらぼうに何か一言だけつぶやいて車を降りて行ってしまう。何事?と思ったら・・・どうやらトイレ休憩ということらしい。何分間の休憩かも全然わからない...(苦笑)。置いて行かれそうで怖いので、乗客はバスの近くから離れられない。しばらくしてバスの運転手が無言で店から戻って来ると、みんなでゾロゾロとバスに戻って行く。だいたいそんな感じ。

途中、シスターのおばあさんがバスを止めて乗って来たり(座席は満席だったけど、皆で少しずつ詰めてどうにかスペースを作った)、停留所らしき場所で待っていた学生が運転手と何やら激しく言い合った末に助手席に乗りこんでしまったり・・・なんともローカル色豊かな(?)バスでした。。

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結局、予定より1時間くらい余計にかかって、モスタルのバスターミナルに着いたのは夜の7時半を回っていました。すでに真っ暗...。最後までバスに乗っていたのは私たち2人だけ。周囲を見渡すと、民宿の呼び込みをやっている若者数名とタクシー以外、観光客も地元の人も誰も歩いていない・・・。宿までは歩いて行けるものと思っていたけど、暗くてまったく街の様子がわからないしちょっと危うい気配もあったので、結局タクシーに乗ってホテルまで連れて行ってもらうことになりました。

いくらぼられても仕方ない状況でのタクシーだったけど、運転手はとても親切な方で、遠回りされることもなく規定通りの料金でした(たぶん)。まずは宿まで無事に辿り着けてひと安心。。急いでチェックインをすませ、荷物を置いて再び外へ繰り出しました。

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まずは旧市街を目指して表通りに出てみた。街の中心地を走る主要道路のはずなのに、人通りは少なくて走っている車もまばら。照明も少なくて、静かで寂しい雰囲気でした。通り沿いの建物には......きっと戦争の傷跡なのでしょう......無惨に崩壊した外壁が散見されて、その周辺には立ち入り禁止のロープが張られていました...。

そのままこの通りをしばらく歩いていたら、いきなりモスクに遭遇。私にとっては、はじめて来たイスラムの地で、はじめて見るモスク。

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青い月が朧な光を放つ夜空に、忽然とそびえ立つ尖塔とドーム。その光景を目の当たりにした時、私は一瞬、鳥肌が立つような感覚に捕われてしまいました...。単に「美しい」でも「感動」でもなくて、何と言えばいいのか、未知なるものに出会ったときの反射的な「心のざわめき」のようなものだったのかもしれません。映像や写真で見るのとは全く違って、実際のイスラムの地で触れたモスクの存在感は、とてもとても大きなものでした。このときの衝撃は忘れられません。。。

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そして、これが有名な「スタリ・モスト(古い橋)」。400年以上の歴史を重ねてきた堅牢で美しい橋。トルコ・アラブ建築の傑作として名高い。この橋によってネトレヴァ川両岸に広がる集落がつながり、交易と手工業が盛んとなってモスタルの街は大きく発展していきました。東西の様々な文化が交錯し、多民族、異なる宗教が混在しながら、多様な価値観を認め合い尊重する文化を育んでいく。しかしボスニア内戦時にこの地が激戦地となり、この「スタリ・モスト」は破壊され、血で血を洗う激しい戦闘が繰り広げられてしまったたです...。戦争の終結後2004年になって、往時の姿が忠実に復元されまし。この古橋は貴重な歴史遺産であるとともに、平和の訪れの象徴にもなっています。

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「スタリ・モスト」へと続く川沿いの道には、土産物を売る露店がたくさん並んでいました。この辺りまで来ると観光客の姿もちらほら。金属細工のアクセサリーや革製品など、なかなか魅力的なものもあって、値段もかなり安い。

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お店を物色してるうちにどんどん店が閉まっていくので、まずは旧市街の中心地まで行って、ホテルの人が「ここがすごく美味しい!」と教えてくれた郷土料理のレストランに行ってみることに。

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ボスニアの郷土料理と言っても、基本的にはトルコ料理。「サルマ」という、葡萄の葉っぱで挽肉を包んで煮込んだ料理がなかなか美味しかったです。あとはシシケバブとか、挽肉を平たく伸ばして焼いたものとか。正直言って、どれもちょっと重すぎてあまり食が進まなかったかな...。ひどく疲れていたせいもあったし、この店のチョイスが良くなかったのかもしれないけど。でもボスニアのビールはうまかった! お土産で日本に持ち帰ったくらいに。ビールに関しては、クロアチアよりもこちらの方が味わい深かったと思う。

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レストランを出た頃は夜半近い時間になっていたので、ますます人通りも少なくなり、開いている店もほとんどなくなっていました。街全体が深い闇に包まれて、幻想的な美しさを増していく。不揃いな照明が、余計に闇を深く感じさせます。

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戦争で被害を受けたのか、もともと崩れかかってる建物なのか。トルコ風の古い建物が並ぶ街の景観は、西欧の優美で均整のとれた建築群とはあきらかに異なる。部分がランダムに増殖して積み重なっていったような印象の街並。この雑多で複雑な様子が、なんとも心地よいのです。裏路地を進むと、ちょっと怪しげな空間もあったけど、基本的に治安は良くて危ない感じはしなかったかな。

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先程の「スタリ・モスト」の片隅には、「DON'T FOEGET '93(93年を忘れるな)」の文字が刻まれている。紛争当事者と旧ユーゴ市民にとっての「戒め」であるだけではない。私たちすべてに対する警鐘であり、平和への願いがここに込められています。

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