■2001年10月31日（水）

10月も今日でおしまい。大好きな季節のはずなのに、秋の景色を楽しんでいる間もなく、足早に時間ばかりが過ぎ去っていく。会社を辞めてからもう2ヶ月が経ってしまった。しばらくぼんやりしながら、これからやっていくことの準備をするつもりだったのに、息つく暇もなく頼まれ事ばかりが続いて、ずっと余裕のない毎日。それでいいのか悪いのか、そんなこと考えてもいられない。とにかく目の前にあることに向き合っていくだけで精一杯だ。 自分の考えにばかり意固地にならず、もっとちゃんと人の意見も聞いて行動できれば、もう少しリスクの少ない生き方ができるのだろう。そういう能力が自分には欠けてしまっている。でも 、周りが言う「現実的」という判断が、私にはリアルに感じられないのだから仕方がない。自分の思い込みと、好き嫌いの感覚を信じて、とにかく前に進むしかない。その感覚を共有できる人達が、たとえ少数でも身近にいてくれさえすれば、それが一番幸せなことだと思う。

■2001年10月30日（火）

夜寝て朝起きる生活が二日続いて、だいぶ体力が回復した気がする。今日の一日は朝風呂でスタート。すっかり散らかった部屋を片付けたり、ゴミを出したり、家の雑事で半日が終わってしまう。生活していると、どうしてこうも面倒なことが多いのだろう。近頃、食事することさえ面倒に思えて仕方ない。本の仕事にかかりきりになってしまって、他の仕事が溜まってしまっている。請求書も書かないといけないし。ちっとも休んでいられない。でも今のうちに少し体調を整えておかないと、この先もたない気がする。一人で仕事するのは、やっぱり大変だな。

■2001年10月28日（日）

この一週間、本の仕事にかかりきりだった。100ページくらいになる本を全て私一人でやらせてもらっているので、やり甲斐もあるけれどとても大変な作業だ。ずっと集中して作業をしてきたのに、なかなかはかどらなかった。ドタバタとまとめた原稿をとりあえず引っさげて、出版者の人とツメの打ち合わせをしに行った。多少修正しないといけないことも出てきたけれど、どうにかある程度見通しが立った。やっと形が見えてきて、少し安心した。 高田馬場を出て、そのまま四ッ谷へ。両親が仕事の都合で上京していたので、会いにいった。こんな忙しい時にタイミング悪く出てこなくってもいいのにと内心思いながら、クタクタな状態でホテルの部屋にたどり着いた。椅子に座っているのさえつらくって、ベッドに横になっていたら、「仕事は順調なのか」「ちゃんと食べていけるのか」とあれこれ矢継ぎ早に、心配の種を投げかけられる。ついイライラして、「今日は一日何も食べていないし、昨日から寝てもいない」と答えたら、「そんなにひもじい生活なのか」とひどくけげんな顔をされてしまう。そうではなくて、今とても大事な仕事をしていてとても忙しいのだと説明しても、まったく聞く耳持たない。何歳になってもどんな実績を作っても、親にとっては子供は子供。いつまでたっても一人前の扱いをしてくれない。こっちはこっちで幼稚な態度をしているのだけど。久しぶりに顔を合わせても、なかなか素直な気持ちで向き合えない。

■2001年10月27日（土）

今日は天気が良かったので、先日買っておいたパソコンラックを外で組み立てした。最近また物が増えて、特にパソコンの周辺機器が収拾のつかない状況だった。でもこれでなんとか、すっきり物が納まった気がする。とても使い勝手が良くなった。 この部屋の中で、仕事のためのスペースが徐々に広がりつつある。生活のための領域は、次々に犠牲にされてしまっている。とにかく寝る場所と食事する空間があれば、それで充分なのだけど。それにしても、ひどいあり様だな。この部屋は。

■2001年10月26日（金）

誰かに見ていてもらいたいと思う気持ちと、誰にも見られたくないと思う気持ち。誰かと話したいと思う気持ちと、誰とも話なんかしたくないと思う気持ち。何かを伝えたいと思う気持ちと、最初から何も伝わるはずがないと思う気持ち…。 あんまり余計なことは言葉にしない方がいいのだろう。難しいな。何をやっても。

■2001年10月25日（木）

今日、打ち合わせで目黒に行った折、ネパール・チベット料理の看板が目についたので、そこでランチを食べた。古びたビルの5階だし、きっと空いててくつろげるだろうと思って上がってみたら、思いがけずネクタイしたサラリーマン達で賑わってて驚いた。 日替わりを頼んだら、カレーに大きなナンが1枚と、それから何故かチャーハンがついたセット。ミルクティー付きで780円だから、ボリュームがあるわりに結構リーズナブルだと思う。靴を脱いで上がるお店で、ちいさなスペースだけど夜に来ると雰囲気が良さそう。隣の席で、すごくまっとうな身なりのサラリーマンが、会社の同僚らしき黒人の男性に、マジンガーZとゲッターロボの違いについて、延々と語っていた。とてもおかしくって、奇妙な光景だった。 「MADAL」というお店。京都に姉妹店もあるようだし、その方面で有名なんだろうか？

■2001年10月24日（水）

つかれた。自分で自分をいたわっても、何の得にもならないけれど、ここ数日本当にがんばってるんだと思う。昨日は一晩中、MAC二台を並べて作業した。これでやっと先が見えてきた。でも風邪が抜けなくて、だんだん息苦しくなってきた。昼間寝ても少しも体が休まらない。ひさしぶりに、ちゃんと夜の時間に寝ることにしよう。もう限界。

■2001年10月23日（火）

高校の時分から、日々思いついたことを書き留めていたノートがある。連日家にこもっての単調な作業で少し気がめいってきて、なんとなくその古いノートを開いてみた。そしたらその最初の1ページ目に、「坂口尚の作品に出会って感激した」内容が書き綴ってあった。1983年7月の日付け。なんだかとても不思議な気がする。あれから18年の間に私は私なりに、いろんなものからたくさん影響を受けてきたし、いろんな人と出会ったし、ものを考えてきたし、良いことも悪いことも経験した。それでも結局同じような場所に立っている自分に気づく。 あれからまったく成長していないのだろうか。何ひとつ新しいことを学んでいなかったのだろうか？‥‥いや、きっとそうではないだろう。あれからずっと、同じものみつめてきたんだと思う。ここに踏み止まってきたんだと思う。 1983年の夏。私は自分にとって転機となる、二つの大事なものに出会った。そのひとつが、坂口さんの作品の中に描かれた世界だった。それが何なのか、私には言葉で言い表せない。坂口さん本人は、作品の中で何を描きたんだと親しい友人に聞かれた時に、「風にゆれるコスモス」と、ポツリと言ったそうである。そんな風に言える感性こそが、何よりも尊いものに違いない。その時からずっと、私はそんなものに憧れて、絵を描いてきたんだと思う。もうひとつのことの方は、もうずいぶん昔になくしてしまったけれど。 ときどき自分のしていることが、まったく無意味に感じられることがある。もっと現実的な判断をすべきだと考えることもある。もっと実利的なこと、勇ましいもの、声の大きいところに、すり寄りたいと思う気持ちが自分にもないわけではない。そういうものへの誘惑は、歳を重ねる毎に強くなる。でも、私はそっちに歩きたくない。弱々しくて小さく、はかないものの中にこそ、本当に大事なもの、本当に美しいものが秘められているのだという信念を、これからも守り続けていたい。 毎日慌ただしく仕事に追われて、しばらく気持ちの余裕をなくしていたけれど、ふとしたことから大事なことを思い出すことができた。自分について振り返ってみる、良い時間を持てたと思う。

■2001年10月22日（月）

生活の時間帯が乱れていて、わけがわからなくなってきた。この時間は、自分にとって昼なのか夜なのか。さっき食べたご飯は夕食なのか、朝食なのか。ちゃんと寝たんだか、昼寝しただけなのか。一日の始まりはいつだって、いったいいつになったら終わるんだか・・・。 今日は何曜日だったっけ？

■2001年10月21日（日）

風邪の神様（？）への願いが通じたのか、昨日はどうにか朝まで持ちこたえた。今日はたくさん眠ったので、体もだいぶ楽になった。今、夜中の12時半をまわったところ。これからが私の仕事の時間。 連日、坂口尚さんの原稿やスケッチブック、スクラップブックを、ひたすらスキャンニングする作業をしている。ひとつひとつの扱いに緊張するし、階調の補正に手がかかり、とても神経を使う。一晩作業を続けるとぐったり疲れる。でもたくさんの人達がこの本の仕上がりを待っているから、休んでもいられない。 それにしても、人のめぐり合わせはとても不思議だ。私が絵を描く上で一番影響を受け、ずっと尊敬してきた作家の本づくりに、今自分が関わっている。こんな日が来るなんて、まったく想像したこともなかった。自分にとって一番つらかった年頃に、坂口尚さんの作品世界が自分にとっての何よりのよりどころだった。毎日すがるようなような思いで繰り返しその本を広げ、自分の居場所を確認することができた。そのことにはどんなに感謝したって、感謝しきれない…。その坂口尚さんが急逝してしまった後で、未発表の遺作を世に送り出すためのお手伝いを、今自分がしているのだ。これ以上に幸せな機会はないだろう。だから少しくらい大変な思いをしたって、この仕事は大事にしないといけない。 もっともっと、がんばらないと。

■2001年10月20日（土）

風邪をひいた。体がだるくて頭が痛い。でも今は風邪なんかひいてる場合じゃない。とても大事な仕事をしてる時なんだから。坂口尚さんの特別冊子の制作が、いよいよ切羽詰まってきた。私の段取りが悪いばっかりに、制作のスケジュールがかなり遅れてしまっている。この一週間でどうにか形にしなければ…。本当に風邪なんかひいてる場合じゃないんだ。 薬をたくさん飲んで、イソジンでうがいしまくって、どうにかごまかしている。風邪のウィルスに情けがあるなら、あともうちょっとの間辛抱していてくれと切に願う。この仕事が終わったら、好きなだけ風邪をひいててあげるから。

■2001年10月19日（金）

「自分が本当に何者かを示すのは、持っている能力ではなく、自分がどのような選択をするかということ」---『ハリー・ポッターと秘密の部屋』の中で一番心に残った言葉。 ハリー・ポッターの２巻目をやっと読み終えた。私はこの本が日本で出版される前からずっと楽しみにしていて、やっと1巻目の翻訳が出た時はとても感激した。それから人にさんざん勧めておいて、自分の方は読み進めていなかった。甥っこまで夢中にさせていたのに。 この本の素晴らしさは、私たち一人ひとりに「自分自身の存在の価値」を照らし出してくれることだ。どんなにつらいことがあっても、不合理で不遇な状況に置かれていても、ちょっとだけ違う尺度でものごとを見渡せば「世界は変わり得る」のだと教えてくれる。「自分にも本当は魔法使いの血が流れてるのかもしれない」…そう思うだけで、こども達はどんなに勇気づけられることだろうか。世界中のこども達がハリー・ポッターを支持する理由が少しわかってきた気がする。 この本は内容も素晴らしいけれど、その作者の生き様や出版を支えてきた人達の誠意にも、とても感銘を受ける。

■2001年10月18日（木）

利き腕が肩から下、ぐったり重い。部屋にこもっての仕事が続き、体はたいして動かさないのに腕ばかり酷使していたからなんだろうか。そういえばここんところ、一日の大半の時間、マウスを握りしめてる気がする。 以前、ライターの仕事をしてる友人が、「自分の手、怪我とかしないよう普段から注意した方がいいよ。私たちのような商売やってる人間にとっては、一番大事な商売道具なんだから」と言っていたのを思い出した。そういう感覚が私には欠けているのかもしれない。 もしもこの手が使えなくなったとしたら、などとつまらない想像をしてみる。絵を描かなくなった時、私はいったい何をしてるんだろうか。その時私はどうなってしまうんだろう…。周りから何も期待されない人間になってしまうのが恐い。

■2001年10月17日（水）

サイトのリニューアルがどうにか形になった。ずいぶん時間がかかったのに、あらためて眺めてみるとなんだかあまり変わり映えがしない。 今回のそもそもの目的は、これから仕事として人に示していくことと、これまでの自分のプライベートな領域とを区別して距離を置くことのはずだった。途中まったく別の2つのサイト作ろうかとも考えたけれど、結局切り離すことができなかった。考えれば考える程、その境界線をどこに置いたらいいのかわからなくなってしまった。今までに、仕事とプライベートとを分けていたことがあったのか？イラストかデザインか印刷かによって取り組み方に違いはあったのか？作品として絵を描くことと、仕事として絵を描くことに違いがあったのか？そもそもそれを区別することに何か意味があるのかどうか…。 格好は悪いけれど、このまま中途半端な形を保ちながら、これからも仕事を続けていけたらと思う。 また日記みたいなことを書きはじめることに、まだ戸惑いがあるが、自分自身のための覚え書きとして、これからはこまめに記録していくことにしよう。