「第1回 じゆう研究室」に参加しました

少し前に遡りますが、4月19日に「第1回 じゆう研究室」というイベントに参加しました。このイベントは、LUFTKATZEのひらかわ珠希さんにご案内いただきました。「じゆう研究室」は、活版印刷をきっかけに集まったグラフィックデザイナー3人(かわのゆうこさん、ひらかわ珠希さん、スズキチヒロさん)が、新しくスタートした企画なのだそうです。この先の展開がとても楽しみ。
 
★「じゆう研究室」のHPはこちら→http://jiyuken.blogspot.com/
 

この日のテーマは、「活字地金彫刻師」。1936年から40年にわたって、何万もの活字を手彫りでつくり続けた「清水金之助さん」を先生としてお迎えし、お話を伺いつつ実演を行う企画でした。私が印刷会社にいた最初の頃はまだ活版印刷がぎりぎり現役な時代でしたので、活版や活字を間近で見てきましたが、さすがに手彫りで活字を作る現場までは見たことはありません。今回はその作業を実際に目撃できるということで、行く前からとても楽しみにしてました。(直前まで開催日を間違って覚えてたけど…笑)
 
会場は赤坂コミュニティープラザ内の和室。会場に入ると、すでにたくさんの参加者で賑わっていました。女性の参加者がとても多かったです。活字に関心を持ってる人が、若い世代に広がってるんだと実感します。
 

 
 
 
会の進行は、まず最初に清水さんのお話から始まりました。この仕事をはじめたきっかけや当時の仕事内容、今日に至るまでの活字との関わりについて等、興味深い内容をたくさん聞かせていただきました。その後2班に分かれて順番に、清水さんの実演を間近で見学させていただくのと、岩田母型の高内一さん(↓ 下の写真)の元で活字製造の流れや活字の種類についてなどを学習しました。やはり現場の最前線に立っていた方の言葉は重みはあって、本で読む知識とは違う形で心に響きました。
 

 
私の認識が間違っていたのですが、地金彫刻は活版印刷の初期のもので、途中から機械で製造されたものに置き換わっていたのだと思っていました。ところが高内さんのお話を伺うと、機械で作られたものと手彫りの活字が共存する形態がずっと続いたのだそうです。すべて機械に置き換えたいと思っても、当時は製造のコストやスピードの問題があったのだとか(清水さんのような優れた職人さんなら、機械で作るよりも早かった)。つまり、当時の活字組版で刷られた印刷物には、手彫りの活字と機械で作られた活字が混在してる場合が多々あったということですね。私にとっては大きな発見でした。う〜ん、なんだかいたく感動します。。
 

 
↑ これが清水さんがつくった活字。上の方の活字が仕上げを経た完成品で、下の方の活字は粗削りした状態ものです。活字についての専門の知識があるなしに関わらず、とにかくこの美しさに誰もが驚かずにはいられないと思います。
 
右のパネルは清水さんが作った活字で試し刷りしたものを、大きく拡大したもの。なんて美しい形の文字なんでしょう!そして緊張感のある、きりっとしたエッジ! この文字を清水さんは、何の下書きもせず直に鉛の塊へ彫り込んで行くのです。しかも反転した図像で。とても人間業とは思えませんね…。「正字で彫れって言われたら、その方が難しい」とおっしゃっていました。
 
何より一番感激したのが、清水さんの人柄の良さ! 高い技術を持った職人さんと言えば、気難しくて作業中に話しかけたりしたら怒鳴られそうなイメージです。ところが清水さんは、こっちが恐縮するくらいに(笑)、本当に優しくてあたたかい方でした。真剣な表情で微細な作業に集中しながらも、「あ、なんでも聞いてくださいー」と声をかけてくださいます。そのやさしい声に甘えさせていただいて、私たちは時間いっぱいにあれやこれやと質問して、たくさんの貴重なお話を聞くことが出来ました。なんと贅沢な時間だったことでしょう。企画してくださった方々に心から感謝です!
 

 
清水さんが、およそ半世紀の間ずっと使い込んだ台座のレンズ。その無二の宝物であるレンズを持たせていただきました。あまりの歴史の重さに、手が震えます。。
 
清水さんのお話の中で、「最近の印刷物を見てどんな風に感じてますか?」という問いに対して、「やっぱり“味”がないですよ。私らの頃は一文字一文字みんな、人が手でつくってたんだから…」と答えてくださっていたのが、とても心に残りました。考えさせられることもたくさん。活版印刷を単に懐古の対象にするのではなく、良かった面と悪かった面をきちんと検証した上で、良い部分は貴重な文化として継承させていく努力をすべきなのだとあらためて感じています。