先週、東京フィルムセンターで開催中のFILM DAYS 2014を観に行った折、次の上映までの待ち時間を使って、LIXILギャラリーで開催中の「背守り 子どもの魔よけ 展」を観てきました。

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「背守り」とは、子どもの魔よけとして着物の背中に施した飾りのこと。生まれたばかりの命が失われてしまうことが多かった時代、尊い命を守りたいという願いを込めて、産着や祝い着にさまざまな形の飾りを母親が縫い付けたそうです。今ではすっかり忘れ去られていますが、昭和初期まで広く知られた風習でした。

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「背守り」のなかで最もポピュラーなものが「糸じるし」。和服の背の縫い目には魔物が入り込む隙を封じ込める意味があったそうですが、子どもの用の小さな服には縫い目がありません。それを擬似的に表現する意図があったと考えられます。いろんなバリエーションがあるようですが、まっすぐ縦に一本と、斜めに1本を加えたものが基本のようで、斜めの方向の「左向き」が男の子と「右向き」が女の子となっていたそうです。

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地域や時代、社会階層によって様々な形状のものがあって、このようなピンポイントの刺繍を施すことも多かったようです。いろんなかわいい図柄があって、見ててるだけでとても楽しい。。

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更にそこから発展して、「押絵」という立体のアップリケみたいなものを縫い付けることもありました。亀、風車、そしてコウモリの押絵。なんともユニークな造形で、もはや「背守り」という用途をはみ出しているような。。個性を競うひとつのファッションへと高まっていったようにも感じます。

そもそもなぜ「背」なのか、という素朴な疑問も湧いてきますが、展示してあった解説文の考察が深くとても読み応えありました。「背」は、私たちにとって「うしろ」の世界。「うしろ」の世界とは、悪霊や鬼が、自然界の様々な霊が行き交う世界。つまり、現世のこちらの世界と、あちら側の世界とが「背」を挟んで表裏一体にあるものと考えられていたのです。そこには、日本古来からの土着的な宗教観が根底に息づいているのでしょう。確かに、黄昏時の田舎道とか歩いていると、振り返るのが怖くなる瞬間ってありますよね。。

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「背守り」の文様を集めた「背紋帖」。様々なバリエーションが記録されています。

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会場では「背守り」意外にも、子どもの衣装に関連した小物なども展示されていました。これは「迷子札」と呼ばれるもの。裏面には名前や住所などを書き込むようになっています。子どもの帯などに結びつけていたのでしょう。

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これは「百徳着物」という、たくさんの端切れをつなぎ合わせて作られた着物。「子育ちのよい家や長寿の年寄りから端切れをもらい、百枚を綴って子どもに着せると丈夫に育つという風習」があったそうです。一見バラバラな文様の生地たちが絶妙なバランスで組み合わされ、美しい色彩のリズムを奏でているようです。見れば見るほどじんわりとあたたかな魅力がにじみ出してきます。

「背守り」も「百徳着物」も、その実物を目の当たりにすると、その創意工夫と手間のかかる手仕事の素晴しさに心うたれます。愛する我が子が健やかに育ちますようにと、そのひと針ひと針に、母の気持ちが込められているのでしょう。着古した着物はほころんでも、そこに込められた愛情の深さはけっして色あせることなく、今もひしひしと伝わってくるのです。今では失われつつある文化ですが、この美しい手仕事の伝統を、何かの形で未来にも引き継いで行けたら・・・と切に感じました。

「背守り 子どもの魔よけ 展」は、京橋のLIXILギャラリーで8/23まで開催。素晴しい展示ですのでぜひ。石内都さんの写真展「-幼き衣へ-」も見応えあります。
http://www1.lixil.co.jp/gallery/exhibition/detail/d_002767.html

EUフィルムデーズ2014のラインナップ、エストニアの映画『ケルトゥ/愛は盲目』を観てきました。監督は『クロワッサンで朝食を』のイルマル・ラーグ。この作品が長編第2作目。制作されたのはで2013年で、この上映が日本での初公開となりました。

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エストニアの小さな村が舞台。極端に口数が少なく、内向的な性格のケルトゥ。彼女は人とうまくコミュニケーションを取ることができず、家族は「知恵遅れ」とみなしていて、村人たちも心に病を抱えた娘だと思っている。そんなケルトゥが、「女ったらしでアル中のダメ男」のヴィッルに、何故か心を寄せてしまう...。誰にも知られないまま密かな恋心を抱き続けるが、あるときその想いを託した絵ハガキをヴィッルに送る。ヴィッルは突然のことに驚きながらも、そのハガキを大事にポケットにしまうのだった。。
そんなある日。夏至祭の夜、ケルトゥは突然姿を消してしまう。家族は慌てふためき警察沙汰になってしまうのだが、翌朝、アル中男の部屋にいたことが発覚。その夜いったい何があったのか、対人恐怖症の傾向があるケルトゥは人に話すことができないし、ダメ男と烙印を押されているヴィッルの言うことなど、誰も最初から聞こうとはしない。小さな村での出来事なので、様々な憶測を呼んで周囲は騒然となり、激しい怒りがヴィッルに向けられるのだが・・・・

ストーリーが進行する中で、フラッシュバックの形で映像が挿入され、その夜に何があったのかが徐々に明らかになってきます。そして、二人の想いの激しさと切なさに胸を打たれます。二人がお祭りのあとの夜道を並んで歩きながらクッキーを食べるシーンが、私にとっては深く心に響きました。そんなささいな一瞬があっただけで、お互いがかけがえのない存在になることだってあるでしょう。他の人には決してわからなくっても。

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登場人物それぞれの心理描写がとても丁寧で緻密。私はすっかり作品世界に浸りきってしまって、ケルトゥに父親が暴力を振るうシーンでは、思わずこちらまで身構えてしまったほどでした。。 二人の関係が周りの人間たちを巻き込んで複雑に展開していくのですが、善人/悪人というような単純な世界の切り分け方はしておらず、みんなそれぞれに問題や悩みを抱えながら懸命に生きている人間として描かれています。その映像は残酷でリアリスティックなまなざしでありながら、根底には確固たるヒューマニズムの精神が息づいている。ケン・ローチ監督の初期の作品を観た時の感触に似たものを感じました。ひさびさに映画らしい感動を得ることのできた、素晴しい作品でした。本当に観て良かった。。

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ところで、この映画の副題「愛は盲目」という言葉は、映画を観たあとの感想としては「ちょっと違うのでは?」と私は思ってしまいました。タイトルから連想されるものと、実際のストーリー展開が良い意味で裏切られていくという意味では、まぁそれでも良いのかもしれませんが。二人は愛の向こう側の風景をしっかり見ようとしていました。その愛が「見えていない」のは、むしろ周りの人間たちだったのではないでしょうか。

この日は上映前と上映後に、主演女優ウルシュラ・ラタセップさんのトークショーがありました。こんな貴重な場面に立ち合えたのは本当に幸せなこと。。映画の中で見る印象とはまた違って、とてもチャーミングな素敵な女優さんでしたよ。

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上映前の挨拶では、エストニア特命全権大使のトイヴォ・タサ氏がいきなり登場するサプライズ!事前情報を聞いてなかったので本当にびっくり。 大使はいつにも増した笑顔でした。

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質疑応答の中で、この映画の舞台がエストニアのサーレマー島であったことを知りました。サーレマー島はいつか行ってみたいと思ってる場所。あの緑の平原の道を、いつか歩いてみたい。

★EUフィルムデーズ2014の公式サイト→http://www.eufilmdays.jp

川崎大師の「花まつり」

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先々月の写真ですが、はじめて行った川崎大師。

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東京に来てから20年近くになるのに、今まで行く機会がなかったのは不思議な気もするのだけど。。想像してたよりもはるかに立派で風格ある佇まいに、ちょっとびっくり。

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この日は「花まつり」の期間ということで、本堂前には「花御堂」が置かれていました。ちいさなお釈迦様の誕生仏に、甘茶をかけてお祝いをするのだそうです。

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参道の仲見世には美味しそうなものがたくさん。いちいち立ち止まってしまいます。。

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中でも、この吉田屋のよもぎまんが一番おいしかったかな。

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川崎大師はこの「とんとこ飴」が名物のようで、たくさんの飴屋が軒を並べて飴切りのリズミカルな音を響かせています。様々な種類の飴が店先をにぎわす中、こんなピンク色のエキセントリックな造形のものもありましたよ。。。(^^;)

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思ったより見所も多く、楽しかった川崎大師。食事が美味しそうなお店もいろいろあったので、また行かなければ。。

baron.jpgEUフィルムデーズ2014のラインナップ、ポルトガルの映画「バロン」を見てきた。監督はエドガル・ペラ。2011年の制作だけど全編モノクロ作品。1930年代のゴシック調な恐怖映画の手法をリバイバルしつつ、実験的で独創的な映像表現を追求した作品。恐怖映画というより、デビッド・リンチの悪夢のシーンが2時間延々と続いているような世界でした。非常に濃密で難解・・・。正直、なかなか観るのに体力要ります。でも時間経ってから、苦々しくも心地よい悪夢だったような感触。吸血鬼をモチーフにしていますが、ダイレクトには描かれてはいないので、ポルトガルの歴史を踏まえて象徴的に捉えるべきなのでしょう。またこの監督の作品を観てみたい。

http://eufilmdays.jp/film/portugal

ひと月近く前の話しですが、亀戸天神の「藤まつり」に行ってきました。

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・・・とその前に、亀戸に行ったら、まずは亀戸餃子は外せませんね。。(^-^)

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亀戸天神の「藤まつり」に行くのは、この時がはじめて。「満開の藤棚は本当に見事だけど、身動きできないほどの大変な人の賑わい 」と聞いていました。覚悟して行ったのですが、境内に入っても思いのほか閑散としてるので「おかしいな?」と思っていたら・・・

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・・・すでに花はほとんど終わっていたのでした...(^^;)

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しょうがないので、花見より食い気。。。というわけで、亀戸ホルモンを喰らってきました。どのお店も満席で長蛇の列でしたが、亀戸ホルモンの初代料理長が独立して開いたという「吉田」という店に、しばらく並んだ末にどうにか入れました。

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せっかくなので、めずらしそうな部位をいろいろ。シビレ、ノドモト、オッパイなどなど。さすがこれだけの行列ができるだけあって、どれもどれも本当にうまい!ネタが新鮮だからこその美味しさなのでしょうね。

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ちなみに9時を回ると店は空いてきますが、その頃は人気のネタもなくなってます。確実にお店に入るには、5時くらいから並ばないといけないそうですよ。。

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(その29)で終わってしまうのは、なんとなくキリが悪いので。。。おまけの記事。

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リトアニアで買ってきた琥珀のグッズ一式です。ヴィリニュス空港で買ったこのハリネズミのマグネットクリップが私のお気に入り♪ ヴィリニュスの琥珀博物館で買ったアクセサリーにはちゃんと「Certificate」を付けてもらえました。

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そしてバルト三国で買って帰った酒一式!(笑)。。ビールだけで20本くらい。下着とか余計な荷物は全部旅先で処分して、スーツケースに詰められるだけ詰めてきました。預け入れ荷物の重量で引っからないかハラハラしましたが、どうにかギリギリセーフ。もちろん成田での帰国時の税関申告はしましたよ。酒類の持ち込みは合計mlで計算したものから免税分をマイナスするので、実際に追徴される関税は意外なほどに小額です。

たくさん持ち帰ったはずのビールですが、あっという間になくなってしまいました...(^^;)。日本国内でもバルト三国のビールを手軽に飲める日が来ることを、心から願ってやみません。

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とうとう旅の最終日。。。かなり旅の疲れが溜まってたけれど、荷造りは前日のうちにすませておいて、この日もがんばって早起き。午後早めの時間に出発の飛行機だったのであまり時間はなかったのですが、ホテルから近いハレス市場にもう一度行ってきました。

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これは「シャコティス」という、リトアニアの伝統的なお菓子。ドイツのバウムクーヘンに似てますが、このシャコティスの方が歴史は古いそうです。お土産に買って帰りたかったのですが、すでにスーツケースはパンパンな状態。残念ながらあきらめました・・・。

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市場の一角にあった総菜売場。ここで選んだものをその場で食べる事もできます。朝食を食べにきている地元の人たちに交じって、私たちもリトアニアらしい料理をいくつかピックアップ。ヴィリュスでの最後の楽しい思い出となりました。

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ヴィリニュス駅から空港へは、この最新型の列車で行くことができます。空港まで10分足らずの所要時間。ホームからはエレベーターで地上まで上がり、そこから空港までを少しの距離歩きますが、荷物移動用のカートも置いてあるし、駅から空港へのアクセスはかなり快適でした。

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ヴィリニュス空港はとてもこじんまりとしてるので、手続きのカウンターを探して焦ったりすることはないのですが、お土産を買ったりするお店も少なくて、余裕もって空港に到着するとかなり時間を持て余します...。

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やることもないので売店をぶらぶら。子ども向けの本のコーナーに、キティちゃんの絵の付録がついてる雑誌を発見。リトアニアでもキティが人気なんでしょうかね。

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チェックインをすませ、出発ロビー内のカフェでリトアニアビールの飲み納め。バルト三国のビールはどれもみんな、本当にうまかったなぁ。。。

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ヴィリニュス空港から再びコペンハーゲンの空港を経由して帰国。10日間に渡るバルト三国の旅は、これでおしまい。こうやって書き綴ってみると盛りだくさんの内容でしたが、旅してる間は毎日があっという間。もっともっといろんなところ見て回りたかったけど、ヨーロッパ初心者の私にとってはこれ以上にない充実した旅となりました。

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さて、今回の「バルト三国の旅」の感想まとめ。。
エストニア、ラトビア、リトアニアを回ってみてまず感じたのは、三国とも街全体にとても活気があって、人の表情が明るいこと。苦難を極めた社会主義時代から完全に脱却し、国全体が急激に成長しているだと実感しました。どこに行っても治安は非常に良くて、とても快適な旅を続けることができます。

そしてもうひとつ。当たり前のことかもしれないけど、「バルト三国」といってもそれぞれが違う個性を持つ国であることを実感できました。エストニアは、気候風土や文化的にもフィンランドと重なる要素が多く、バルト海沿岸諸国というより北欧の国なのだという印象。それに対してラトビアのリガは明るくて開放的な都会。その重層的な街並のあちこちにドイツの面影を色濃く感じます。リトアニアは中欧ヨーロッパの街並と似ているように感じたけど、一方で西欧キリスト教世界とは異質な世界観も根深く残しているようにも感じました。

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エストニア、タリンのラエコヤ広場。さっきまで晴れていたのに突然雨が降ってきたりします。

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ラトビア、リガの通りがかりのビヤホール。ラテン系?と思わせる陽気な若者たちが手を振ってくれました。

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リトアニア、カウナス新市街の洗練された街並。リトアニアは美人が多い国。。

途中の記事で書いた通り、当初はリトアニアに行くことが目的だったのですが、直前で計画を変更してバルト三国とフィンランドを回ることにして本当に良かったと思ってます。本やTVなどで「知る」ことと、実際に自分の目で見て感じてみて「知る」こととは、とてつもなく大きな違いがあるのだと実感しました。旅行のあとで学んだことでもあるですが、三つの国はそれぞれが異なる民族的ルーツと歴史的背景を持っていて、現在の国の形ができるまでの変遷はとても複雑。にもかかわらず、それを漠然としたイメージでひとまとめにされることを、彼ら自身はあまり好ましく思っていないそうです。「バルト三国」という言葉を使う時にはそのことを心の片隅に置いた方が良いと思うし、その上でそれぞれに「共通するもの/違うもの」を丁寧に見て行くことが大事なのだと今は思っています。

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ところで、四つの国を巡ってみて私が一番気に入ったのは、実はエストニアでした。タリンのあの幻想的な街並が大好きになったし、工芸品や雑貨などに見るセンスの良さと、先鋭的なアートとの親和性の高さにとても興味を感じたからです。2011年の9月末にバルト三国を旅行して、その2ヶ月後に「日本・バルト三国国交樹立90周年&国交回復20周年」を祝う「Baltic Week」という催しがあって、コンサートや物品販売など様々な催しが集中的に開催されていました。タイミング良くそのような記念事業に参加することができたのは、とても幸運な出来事。そしていつの間にやら「日本・エストニア友好協会」の会員になっていました。。(笑)。その後も友好協会主催の様々なイベント等を通じて、素晴しい出会いや刺激的で充実した体験に恵まれています。

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日本・エストニア友好協会のクリスマス会(2013)。駐日エストニア特命全権大使のタサ氏をお招きして。

私が旅行したのは2011年でしたが、その後のたった三年の間にもバルト三国に関する書籍が増え、ネット検索でヒットする国内サイトやブログも格段に多くなっています。でも、まだまだ情報が少なくて、日本からは「遠い国」という印象。これからはじめて行く人に、ちょっとでも参考になればと思って、長々と旅行記を綴ってみました。三年前のことなので、記憶が曖昧な部分もあるのですが・・・もしも間違ってる内容があったらご容赦ください。 おそらく多くの人が想像してるよりも、とても快適に旅を楽しめる国だと思います。世界遺産の街並があり、地方に行けば雄大な自然が広がっていて、数多くの観光資源を有した国々です。パリやロンドン、ローマ等の巨大観光都市に行くのとはまた違う魅力が溢れていると思います。機会あれば、ぜひ訪れてみてください!〈おしまい〉

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長々と綴ってきたバルト三国の旅ですが、いよいよ最後のイベント。この日、早起きして向かったのは、ヴィリニュス郊外にある「トラカイ島城」。湖の向こう側にぽっかりと、赤い三角帽子の古城がその姿を現しました。

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まるでおとぎ話に出てきそうな、メルヘンチックな外観。でも、そのかわいらしい印象とは裏腹に、トラカイ島城は重要な軍事拠点でもありました。

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13世紀後半、君主ケストゥティスは、ガルヴェ湖上に浮かぶ島に城の建設を命じます。王家はここを居城とし、宝物庫も移動。ドイツ騎士団との攻防の要としても重要な役割を担い、その後も増改築を重ねて堅牢な城となりました。14〜15世紀のトラカイ島城と城下町はリトアニア大公国の中心になったのです。しかし16世紀に入って政治的・軍事的機能を失ってからは次第に衰え、ロシアからの攻撃を受けて城は崩壊。その後は荒れ放題になっていた時代が続き、再建の事業が始まったのはようやく20世紀に入ってから。ソ連占領時の紆余曲折を経て、独立回復後の1990年代初頭に修復工事が完了しました。

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城の本丸となる建物。2棟の建物が連なる中央の塔は、6階建て、35メートルの高さがあります。

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公爵宮殿の中庭。壁面には木製の回廊が設置されています。当然ながら建物内にも階段がるのですが、この外回廊は主に物資の運搬に使われたそうです。

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宮殿内の広間は、当時の様子をそのままの形で残してあるそうです。赤煉瓦を使ったゴシック様式のアーチ式天井が力強い美しさを放っていました。

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建物内の各部屋では、かつての城の姿を伝える遺跡や資料、宝物の展示がされていました。展示された宝物の装飾や、当時の衣装などを見ると、ヨーロッパ西側とは明らかに異質な文化であったのだと感じずにはいられません。

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平日だったせいか観光客は割と少なかったのですが、学校の先生に引率された子どもたちが大勢見学に来ていました。そういえば、この子供たちと資料展示室で一緒になったとき、私の近くにいた女の子が「この珍獣は何!?」と、驚愕のまなざしで私のことを見つめていた姿が忘れられません...(笑)。きっと、あの子たちにとってはじめて見るアジア人は、古城の宝物以上に興味をそそられる対象だったのかもしれませんね。。。

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ところで、このトラカイ島城は「小さなマルボルク城」と呼ばれることがあるそうです。マルボルク城とは、ドイツ騎士団がバルト海沿岸地方征服の拠点として建設した巨大な城のことです。確かに外観が似ていますね。。。それもそのはず、休戦中の時代にドイツ騎士団の石工が拡張工事の指揮を執っていたのだそうです。しかもそれは1410年の有名な「グルンヴァルトの戦い」直前のこと。両者が激しい戦闘を繰り広げた城なのに、その増改築を受発注しているなんて・・・なんとも不思議な関係ですよね。。。(^^;)

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トラカイと呼ばれる地域は、2つの湖に挟まれた南北に細長く伸びる半島。この周辺には200を超える湖があって、その美しい景観は自然公園として保護されています。古城見学だけでなく、ボート遊びやハイキングなどを楽しめる行楽地として、国内でも人気の観光地となっているそうです。城に近い湖の沿岸には、いくつかのレストランやカフェが点在しています。

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その中の一軒、通りから少し奥まったところにあったお店で、この日のランチをいただきました。木々に囲まれたちいさなテラスに、かわいい猫がお出迎え。

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メニューがまったく読めなくて、よくわからなかったのですが・・・店員さんに聞きながら、郷土料理っぽいものを選んでみたつもり。ヌードルの入ったスープは、確か羊肉で出汁をとったもの。ミートパイは、羊・豚・牛から選べました。

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面白かったのが、このタジン鍋のような器を使った料理。これが郷土料理なのかどうかはわからないのですが、このお店では自慢の料理のようでした。羊肉の味が濃厚で美味。

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トラカイの名物料理として一番有名なのは、前々回の記事に書いた「キビナイ」という羊肉のミートパイ。トラカイ島城に行く途中の道で、こんな風に地元のおばさんたちが手作りのキビナイを売っています。当たり外れがあるかと思いますが、私はこのときに路上で買ったキビナイが最高にうまかったです。。

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トラカイへは、ヴィリニュスからバスで40〜50分くらい。確か1時間に2〜3本走っていました。バスターミナルのインフォメーションに行くと、バスの出発時間と乗車口(出発時間によって変わります)がプリントされたタイムテーブルをもらえます。ただ、バス停を降りてから城までの道程が結構遠い......。こんな感じの道を延々と20〜30分歩くことになります。。

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トラカイは、カライム人、タタール人、ロシア人、ユダヤ人などの異なる民族が共存して築かれた町で、中でもカライム人がこの地に独自のコミュニティを築いてきました。カライム人はトルコ系の独自言語を持つ少数民族で、ユダヤ教の一派とみなされています。彼らのルーツは、今日の世界情勢で注目を集めているクリミア半島にあるそうです。14世紀末、現ウクライナ南部にまで領土を広げていたリトアニアは、彼らを傭兵として移住させたことが始まりでした。そして現在も、独自の民族性を守りながらこの地に暮らしています。

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通りに面して3つの窓が並ぶ造りが、カライメの伝統的な住居なんだとか。必ずしも三窓というわけではなかったのですが、独特なユニークな造形の住居をいくつか見かけました。

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そして、トラカイではたくさんの猫たちに出会いました。猫たちの人懐っこい表情を見ていると、ここがとても住み良い環境なのだと伝わってきます。

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城からの帰り道、湖畔を歩いていたら、湖とは反対側の野原からものすごい勢いで駆け下りてくる白鳥に遭遇。。

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白鳥たちの目当ては、このおばあさんが手に持っているパン屑でした。いつもこうやって白鳥たちにゴハンをあげてるんでしょうね。。なんとも微笑ましい光景。

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豊かな緑と水に囲まれたトラカイは、終日ここでゆっくりしていたくなるほど心地よい風土でした。リトアニアの魅力は歴史的建造物よりも、悠久なる自然の大地にあるのだと気づかされます。いつかまたリトアニアへ行くことがあったなら、地方の田舎町に滞在して静かな田園風景をのんびり歩いてみたい。〈続〉

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ヴィリニュスに行ったら、必ず訪れておきたい教会が二つあります。
そのひとつが聖ペテロ&パウロ教会。旧市街の北端にある大聖堂から、更に北東側に15分くらい歩いたところにあります。地図で見るより意外に距離があるので、あまり時間がない場合はトラムを利用した方がよいかと思います。

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外観は地味な見映えなのですが、一歩中に入ると、その荘厳な美しさに息をのみます。。

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教会内の四方の壁を、白一色の美しい漆喰彫刻があますところなく刻まれていました。自然光によって写し出されるレリーフの陰影の美しさに、しばらく呆然と立ち尽くしてしまいます。

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聖ペテロ&パウロ教会は、ロシアからの解放を記念して17世紀後半に建造された教会。外装に7年、内装には30年も費やされ、イタリアから招集された彫刻師のもとで数百人もの地元の職人たちが携わったそうです。ここにある2000以上の漆喰彫刻には、ひとつとして同じものがないと言われています。

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この中吊りにされた帆船がとても印象なアクセントになっています。

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天使のレリーフがある裏面には、骸骨と死神の彫刻が刻まれていました。。

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そしてもうひとつ。必ず見ておきたいのが、旧市街の東側のエリアにある「聖アンナ教会」。15世紀末に建造が開始され、16世紀後半に完成した教会。当時の技術の粋を集めたもので、ゴシック建築の秀作と賞賛されています。

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この存在感と見事な造形美に圧倒されます・・・。その美しさに感嘆したナポレオンが、「我が手に収めてフランスに持ち帰りたい」と語ったという逸話が残されてるのだそうです。

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聖アンナ教会の内部。外観ほどにはこれといった特徴もなく、感動を誘うものではなかったです。おそらく内部は、後の時代に大幅に改修されたのでしょう。

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聖アンナ教会と後ろには、同じ時期に建てられた「ベルナルディン教会」があります。建物の半分以上は再建されたのだと思いますが、ゴシック様式とバロック様式が混ざりあった外観はなかなか見応えあります。聖アンナ教会と一体になった景観が素晴しい。

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教会の中に入ってみると、こちらは正教会の祭壇でした。外観は正教会っぽくなかったのでちょっとびっくり。。ロシアとの関係の中で、複雑な歩みがあったようです。壁面や内部は美しいフレスコ画に飾られていたそうですが、おそらく戦争で破壊されたのでしょう。現在は修復が進められているようで、建物内は工事中だらけでした。

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聖ペテロ&パウロ教会と聖アンナ教会、そしてベルナルディン教会。どれもヴィリニュスを代表する美しい歴史的建造物。ぜひ立ち寄ってみてください。〈続〉

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夜明けの門をくぐってすぐの脇道を少し入ったところに、とても気になる建物があったので、思いきって入ってみることにしました。

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中に入ると、こんな素敵な木彫り作品がたくさんあってびっくり! 木彫りの人形や動物たちが、どれもとてもユニークな造形でじっくりと魅入ってしまいました。椅子の肘掛けの先がワニ(蛇?)の顔になっててかわいい。。

その建物は、フォークアートの木彫作家・JONAS BUGAILIŠKIS氏の工房兼ショップだったのです。この日は残念ながらご本人はいらっしゃらなかったのですが、迎えてくださった女性の方(たぶん奥さま)に、工房内を案内していただきました。JONAS BUGAILIŠKIS氏はリトアニアでは大変著名な方で、全国から依頼のあるオーダーメイドの家具や十字架を制作したり、公共の場に置かれるレリーフなどを手がけたりしているそうです。

★JONAS BUGAILIŠKIS氏のオフィシャルサイト→ http://www.bugailiskis.com

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工房には大小の魅惑的な道具がぎっしりと並んでいました。制作途中の作品もたくさん。ここで実際に作っている姿を見せていただきたかったな。。

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「夜明けの門通り」をまっすぐ歩いて行くと、旧市庁舎がある市庁舎広場へと通じます。この広場の周辺には気軽に入れるカフェや魅力的なレストランがたくさ並んでいました。ランチがてら、そのうちの一軒のカフェに入ってみることに。

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店内のショーケースにはこんな感じで、いろんな惣菜やデザートなど並んでいるので、そこから選べばいいので注文が簡単。これなら失敗はないですね。。

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というわけで、適当に選んだ料理。遅めのランチだったので軽めにしたけど、どれもとっても美味しかった。リトアニアの料理は味付けが割とあっさり目で、脂っこくもないので、日本人の口にも馴染みが良いと思います。

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この手前の惣菜パンみたいなのは、「キビナイ」という羊肉を使ったミートパイ。リトアニアでは定番の料理。サクッとしたパイ生地が、ジューシーなひき肉の旨味を引き立てます。このお店のキビナイはレベル高かったですが、お店によってかなり差があるようでした。。

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南北に走るメインストリートを更に進んで行くと、途中からピリエス通りと名前が変わります。この辺りには雑貨や衣料品、民芸品などのショップがひしめいています。

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このかわいいカエル置物につい足が止まってしまいました。。手づくりの陶器らしく、みんなちょっとづつ表情が違っているのが楽しい。「Interios」というお店だったと思います。他にも素敵なカップや小物、生活雑貨がたくさんありましたよ。

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リトアニアの特産品と言えば、一番有名なのが「琥珀」。バルト海沿岸に眠る琥珀は、世界の琥珀埋蔵量の80%以上を占めるそうです。中でもリトアニアの琥珀の品質の高さには定評があります。旧市街を歩いていると、あちこちに琥珀のアクセサリーを扱っているお店を見かけました。ひとつひとつ吟味してたらキリがないくらいに。日本で買うより圧倒的安いです。

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普通のお土産屋さんレベルのものはちょっと・・・という方には、「ヴィリニュス琥珀博物館(Amber Museum Gallery)」がおすすめ。1階がショップになっていて、ちょっと値段高めですが、品質高くセンスの良いものを見つけることができます。

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地下のギャラリーには貴重な琥珀コレクションが展示されています。とても小さなスペースですが、この立派な琥珀の原石の展示は見応えありました。

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いつのまにか陽も落ちて、そろそろ晩ご飯の時間。もう一度市庁舎広場に戻ってきて、メインストリートに面した賑わっているレストランに目星を付けました。

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店内には昔の調理器具とかが飾ってあって、なかなか風情があります。意外に奥行きがあって、二階にもテーブル席があるようでした。人気のあるお店のようで、あっという間に満席に。

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お店のすごくノリのいいお兄さんに、おすすめを聞いたりしながら適当に注文。で、出てきたのがこの料理。またビーツを使ったスープでしたが、今回はピンクではなく赤い色。もう1品はツェッペリナイを揚げたような形状。ま、早い話しがメンチカツみたいなものでしたが、甘酸っぱいテイストのソースを絡めて食べるとなかなか美味しかったです。

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あともう一品、メジャーな郷土料理ばかりでは面白くないので、メニューの中からまったく予測がつかないものを頼んでみたのですが・・・

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・・・なんと、出てきたのはただの目玉焼き(笑)。

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このお店はお酒のメニューが豊富でした。バルト三国ではビールが格別に美味しいと何度も書きましたが、蒸留酒やリキュールのレベルも高いです。そしてリトアニアのリキュールは、エストニアやラトビア以上に種類豊富な印象でした。このお店には、リキュールの利き酒セット(?)なるものがあったので、さっそく注文。ひとつひとつ、じっくりと飲み比べ。どれもしっかり個性があって美味。酒飲みには幸せなひとときでした。。。〈続〉

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