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休日。ある一日。

ひさしぶりに、平日に会社の休みを取った。せっかくの休みなので、寝坊してはもったいない。でも目が覚めたのはもうお昼近く。会社からの電話で起こされる。

まずは電車に乗って隣の駅へ。ガス料金を払うという大事な用事。あと3日で止められるところだった。銀行の引き落としにすればいいのだが、そう思いながらもう十数年たってしまった。窓口にいたおばさんが、コンピュータのキーボードを器用に打って画面で料金を確認をする。私がお金を出すと、おもむろに机の下からそろばんを取り出し、釣り銭の計算を始めた。あのおばさんにとっては、そろばんに勝る計算機は他に考えられないのだろう。

野方のバス停で中野行きのバスを待っていたら、「地鶏のどらやき」という看板が目に飛び込んできて、ちょっと面食らう。よく見たら「地鶏の卵を使ったどらやき」ということ。別段おかしいものでもなんでもない。けれど私の頭の中には、鳥肉味のどらやきの印象が離れない。バスに乗ってからも、しばらくこの馬鹿げた連想を追いかけてしまう。

さて、中野区役所に到着。要件は住民票の写しをもらうこと。ところが印鑑を忘れてしまった。さて困った。印鑑がなくてもいいのか聞いてみると、窓口のおじさんはニッコニッコしながら、「いいですよ!いいですよ!」と促してくれた。近頃は役所の職員も、ずいぶん腰が低くなったものだと感心する。用紙を提出して身分証を出そうとしたら、「身分証?それじゃあ、ま、いちおう見させていただきましょうか」と言って、私の免許証をちょっと眺めただけで、すぐに書類を整えてくれた。腰が低いのはいいことだけど、フレンドリーすぎないか?

それから吉祥寺まで行って、眼鏡を買う。もうすぐ免許の更新なので、用意しないわけにはいかなかった。2年前に飲み屋でなくしてしまってから、ずっとそのままでいた。日常生活の中では、別に困ることはなかった。だいたい物事は、よく見え過ぎない方がいいのだから。

眼鏡の受け取りまで時間があったので、吉祥寺の街をしばらくブラブラする。平日の街中を気ままに歩くのは、本当に久しぶり。とても気分がいい。パルコの地下の本屋を物色する。ここの本屋は、いつ来てもとてもセンスがよいのだ。外国の文学の書棚が今も充実していて安心する。でも思想書のコーナーがずいぶん縮小されていた。「癒し」系や、「励まし」系の本がここでも多大な面積を浸食してるのだ。こんな状況を今更いちいち嘆いていられないのだけど、なんとなく寂しい気分になる。

仕上った眼鏡を受け取ってから、上野まで移動。ちょっと怪し気な映画館で、テリー・ギリアムの『ラスベガスをやっつけろ!』を観る。実は、これが今日一日の一番大事な用件だった。テリー・ギリアムは、私の期待を裏切ったことがない。今回も期待以上に私を楽しませてくれた。最高にエキサイティングで、最高にイカレた映画。監督自らが、「この映画を世に送りだしたことで、何をしでかしたか、何を招いたかは定かではないが、前もって謝っておきます」という言葉通り、不快なものが満載で情緒のかけらもない。全編にわたりドラッグの嘔吐感に支配されるのであるが、観ているうちに不思議と爽快感がこみ上げてくる。

この作品によって決別するものとは何か? 「アメリカンドリーム」という名の幻想と統制のシステム、70年代ライフスタイルへの浮かれた回帰願望、「カウンターカルチャー」という言葉への過剰な期待、「愛と平和」をドラッグによって買えると信じた若者たち、そしてその過ち---。そんなうさん臭いものをすべてを払拭してくれるのが、この映画なんだろう。監督が語っている、「この時代に切望される映画作品だと思っている。『ラスベガスをやっつけろ!』は90年代用の浣腸だ!」---90年代の締めくくりにふさわしい映画だと思った。

気分良く劇場を出て食事する店を探していたら、どこも若い男女で満席だ。なんなんだ?……あぁ、そうか、今日はホワイトデーとかいうものらしい。イカレた映画を見て一人で喜んでるのは私くらいか。